ジャン=ポール・サルトルとは
ジャン=ポール・サルトルという人を知っていますか?
1905年、フランスのパリに生まれた哲学者です。
かつての日本でも、サルトルの著作が盛んに読まれていた時代がありました。
たとえば、ノーベル賞作家の大江健三郎。彼はサルトルの哲学から影響を受けた作家のひとりです。
大江のような同時代の知識人や学生にとって、サルトルの思想は非常に意義のあるものでした。
なぜなら、その思想(「実存主義」と呼ばれています)の根底にあったのは、「自由」や「政治」など、とても私たちに身近で喫緊した主題だったからです。
戦後、平和や民主主義が取り戻された社会で、人々は人生の目的や意味をあらためて問うようになりました。
そういった問いかけに、サルトルは怯むことなく答えていったのです。
いまの時代こそ、サルトルを読み直そう!
現在はといえば、サルトルの著作はすっかり読まれなくなってしまいました。
理由はいろいろ考えられますが、ひとつには新たな思想の潮流(「ポストモダン」や「構造主義」といいます)――が生まれ、実存主義が批判的に乗り越えられてしまったことが挙げられます。
ですが、私たちが直面している問題は依然として変わりません。
人が言いようのない不安に駆られ、孤独に苛まれるとき、哲学――何より実存主義は、一条の光となって未来を照らしてくれるでしょう。
以下ではサルトルに興味を持った方のために、ぜひ最初に読んでほしい著作をご紹介します。
まずはここから――小説『嘔吐』
哲学者でありながら、サルトルは小説や戯曲も執筆しました。
『嘔吐』はその著作活動の最初期に書かれた作品ですが、たかが小説とあなどるなかれ、その後に展開されるサルトル哲学のエッセンスが方々に詰め込まれています。
何より面白いのが主人公ロカンタンのキャラクター性。旅行家の彼が小さな港町にたどり着くところから話が始まるのですが、この男、今日の言葉を借りればただの「ニート」です。
年金生活で職にもつかず町をふらついているんですが、さえない風貌ながらも妙な愛嬌があり、どこか共感してしまうところがあります。
孤独なロカンタンを襲う突然の「気持ち悪さ」、そして嘔吐とは何なのか、ぜひあなたの想像力を張り巡らせてみてください。
意識の本質とは?――『想像力の問題』
というわけで、次におすすめしたいのは『想像力の問題』です。
表題のとおり、サルトルが「想像力」というものについて論じた著作になります。
サルトルと聞くと主著『存在と無』を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、いきなりこの難解な大著に取りかかるのは至難の業です(止めはしません)。
もちろん、哲学書である以上『想像量の問題』も一筋縄ではいきませんが、ページ数も少なく、なにより「想像力」という身近な主題を扱っていることもあり、比較的読みやすいのではないかと思われます。
まずはこのあたりからサルトル哲学に入っていくのが定石ではないでしょうか。
ちなみにこの「想像力」をめぐる考察は、後期のサルトルが政治参加(サルトルの用語では「アンガージュマン」といいます)へ向かっていくことと、密接に結びついています。
幸い、サルトルに関しては伝記や解説書も豊富に出版されています。
そうした本をガイドに、「実存」をめぐるサルトルの哲学へ足を踏み入れてみましょう!