社会学と聞けば私たちは、なにか社会全体を一挙に説明してくれるような、スーパー理論を考えてしまいがちです。
しかし、そのような大きな理論、いわゆるグランド・セオリーというのは、ひと世代前までの社会学です。
現代では、そうした社会学はあまり好まれません。
それは、大きな理論で全てを説明し尽くそうとする姿勢は、かえって目の前に起きている個別具体的な社会の出来事を、消し去ってしまうものだからです。
そこで、現代の社会学者は、いかにして目前のミクロな「社会現象」を掬い取ってゆくか、ということが課題となります。
たとえば差別の問題があります。
ここで大きな理論を持ち出し、社会の側に実際にこのような差別構造があるのだ、と存在論的に語ることは簡単です。
しかし、それでは問題は解決しないのです。
実際に差別が起きる場所というのは、そういうところではありません。
日常言語のような、一見中立だと本人も思って要るところに、気づかれずに権力が潜んでおり、そこから差別は根強く残り続けるのです。
こうしたものをすくい取るには、理論ではなく、個別的なインタビューや、言説調査、フィールドワークなどによる慎重な調査が欠かせません。
現代の社会学者は、そうして地道に活動しているのです。