リカレント教育とは?
「リカレント教育」って聞いたことがありますか?
この「リカレント教育」をわかりやすくいうと、「大人の学び直し」、「学び直し教育」、「社会人の学び直し」とも表現されます。
「リカレント教育」は高校・大学を卒業し、社会に出た後も、必要に応じて教育機関に戻り、新たな知識や教養を身につけ、また社会へと戻っていく生涯教育構想のことです。
「リカレント教育」のリカレント(recurrent)とは「再発する、頻発する、循環する、回帰する」を意味しています。
この循環(=リカレント)を理念とする仕組みが「リカレント教育」と呼ばれています。
リカレント教育の歴史
リカレント教育は、就職してからも、生涯にわたって教育と他の諸活動(労働、余暇など)を交互に行なうといった教育制度のことです。
スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンが提唱した概念であり、1970年に経済協力開発機構(OECD)が公式に採用し、1973年に「リカレント教育 -生涯学習のための戦略-」報告書が公表されたことで国際的に広く認知されました。
つまり、リカレント教育とは、国際的にも知られている生涯教育構想のことなのです。
リカレント教育への取り組みの具体例としては、通信制大学、通信制大学院、専門職大学、専門職大学院、ビジネススクール 、科目等履修生制度、大学の社会人入学制度、社会人特別選抜制度、夜間部・昼夜開講制度、サテライトキャンパス、通信教育、資格試験など、社会人の学び直しの場も多様化する学習ニーズに応えるかのように年々選択肢が増えています。
また、大学では公開講座という形でリカレント教育の取り組み、従来の大学の役割である教育・研究に加え、社会貢献や地域連携などにより、社会人の学び直しの場としての機能も果たしています。
日本における生涯教育・リカレント教育の歴史について遡ると、慶應義塾大学が1948年に通信教育課程を開講していたりと実は長い歴史があります。
一般的には、テレビでおなじみの放送大学などがよく知られているのではないでしょうか。
欧米のリカレント教育では、スウェーデンやフランスの有給教育制度、アメリカ合衆国のコミュニティ・スクールなどが知られています。
人生100年時代のリカレント教育
いま、日本でもこのリカレント教育が注目を浴びています。
なにせ人生100年時代です。
従来のように若者が学び、青年が働き、定年を迎えて引退する時代ではなくなりました。
おまけに情報技術の発達によって、社会が必要とする知識やスキルも増加しています。
日本では過去長年にわたり、業務遂行上に必要な能力は多くの場合、企業内の教育によって培われて来ることが一般的でした。
ところが、現在のように予測できない雇用変化への対応は企業による教育のみでは限界があると考えられます。
ゆえに、AI・IoT・ロボットの社会実装の進展による雇用環境の変化に対応するためには、人々がそれに対応した能力を身につけられるように、リカレント教育による「学び直し」を行うことが重要になるのです。
このような時代背景もあり、「大人の学び直し」の重要性が議論されるのは当然のことのように感じられます。
リカレント教育のスタイルとは
日本のリカレント教育の現場では、
上記のように仕事を続けながらできるリカレント教育が日本では主流です。
このように、日本ではさまざまな形でリカレント教育を進めてきているものの、リカレント教育のための環境が整っているとはいえず、その改善も今後の課題になっています。
日本のリカレント教育の現実
2015年にOECD(経済開発協力機構)がおこなった調査によると、25歳以上で高等教育機関(=大学)に入学する人の割合は、加盟諸国平均で16.8パーセント。
これに対し、日本はわずか2.5パーセントにとどまっています。
日本のリカレント教育が世界に追いついていないことは、火を見るより明らかです。
よくTV番組で芸能人の受験企画がおこなわれているように、本来、大学はすべての人に対して開かれているもの。
それは誰もが分かっているはずではないでしょうか。
潜在的に学び直したい社会人は多くいるはずなのに、日本のリカレント教育は二の足を踏んでいます。
ここではその理由について少し考えてみましょう。
1.長時間労働
「大学で学び直したいけど、時間がない……」
一番の理由はこれでしょう。
文部科学省が社会人(25~50歳男女)に対して2015年度に実施した調査によると、リカレント教育の課題について、費用の次に多かったのが、勤務時間が長くて十分な時間がないということでした。
世界でもトップクラスの労働時間を誇る(?)日本。
政府も改善に向けて動いていますが、残業で自分の時間を持てない社会人は多いはず。
これでは学習の機会を持つことは難しいでしょう。
現在、政府は時間外労働に上限を設けるなどの働き方改革に乗り出しています。
まずは日本の労働状況を変えなければ、始まるものも始まらないように思います。
2.企業の理解
長いあいだ終身雇用を基盤としてきた日本企業は、社員のキャリアアップを主に社内教育を通しておこなってきました。
景気の悪化で昔のように社員教育に力を入れることは難しくなったかもしれませんが、それでも外部委託に前向きでない企業は存在します。
ましてや大学への再入学ともなれば、貴重な人材を社外に放出してしまうリスクも大きいはず。
このあたり、企業側の理解が得られなければ、リカレント教育の普及は難しいでしょう。

引用元:文部科学省ホームページ
また、文部科学省が行なった「従業員が大学等で学ぶことに関する企業の対応」の調査結果でも、自社の従業員が大学等で学ぶことを認めているかという点については、「原則認めている」と「原則認めていない」が拮抗しており、次いで「上司の許可があれば認めている」という順となっています。
企業で大学等でのリカレント教育を認めていない場合、その主な理由は、「本業に支障をきたすため」「教育内容が実践的ではなく現在の業務に生かせないため」が挙げられているため、日本でのリカレント教育の普及には企業の理解が今後の大きな課題となります。
3.大学側の受け入れ
先ほども述べたように、大学とはすべての人に対して開かれているべきものであり、こうした理念のもとに社会人入試の枠を設けている学部もあります。
しかし、なかには到底社会人向けとは言いがたいカリキュラムが組まれていることも多く、いわば形だけの制度になっている場合も散見されます。
リカレント教育の環境は、あくまで社会人がキャリアアップを図るための手段として整備されなくてはなりません。
かつてのような夜間学部(二部)を設置する大学も減ってしまいましたが、今あらためて、学生と社会のニーズに合った教育方法を提供することが求められています。
おわりに
こうして考えてみると、リカレント教育に求められているのは、まさに産学官連携と言えるようなものです。
いずれの要素が欠けても改革は実現しません。
あらゆる人が学べる仕組みをつくるために、さまざまな垣根を越えた議論が必要になるはずです。